入居者が選ぶ理由を知っていますか? ── 競合物件との比較で見えてくる自物件の弱点

入居者は複数の物件を比べてから申込先を決めます。自分の物件が選ばれなかったとき、入居者が何を決め手にしたかはオーナーには届きません。競合物件との比較を起点にすることで、単独では見えなかった自物件の弱点が具体的に浮かび上がってきます。

花言葉|アイリス「希望・信頼」
KEY POINTS

この記事のポイント

  • 入居者が複数物件を比較して選ぶプロセスと、オーナーに届かない情報の実態
  • 競合物件との比較で自物件の弱点を見える化する管理会社への確認内容
  • 見えた弱点を変えられる条件と変えられない条件に分けて施策の優先順位を決める手順

本文で詳しく解説します。

入居者は何を比べながら物件を選んでいるか

入居者が物件を選ぶとき、一つの物件だけを見て決めることはほとんどありません。ポータルサイトで条件を絞り込み、気になる候補をいくつか並べて比較し、内見したうえで申込先を決めます。このプロセスの中でオーナーの物件が選ばれなかった場合、入居者がどの物件と比較し、何を決め手にして別の物件を選んだかは、オーナーには届きません。管理会社や仲介会社の担当者がヒアリングした場合でも、その内容がオーナーに詳しく伝わることは多くありません。

入居者が比べる基準は、賃料・間取り・設備・共用部の状態・立地の印象が中心です。賃料と間取りはポータルの検索段階で先に絞り込まれるため、内見の段階に進んだ候補同士では、設備・共用部の状態・室内の印象が選択の決め手になることが多くなります。また、内見前の段階でも掲載写真の品質や物件の掲載内容が判断材料になるため、実際に部屋を見に行く前の時点で候補から外れているケースもあります。

オーナーが自物件を評価するとき、多くの場合は自物件の条件を単独で見ています。「この賃料と設備なら問題ないはず」という判断は、市場の中での競合物件との比較なしに下していることが多く、市場での相対的な位置づけが見えにくい状態が続きます。入居者が実際に何と比べながら申込先を決めているかを知ることが、自物件の弱点を把握する出発点になります。

弱点は「比較されたとき」に初めて見える

物件の弱点には、単独で見れば気になりにくく、競合物件と並べたときに差として明確に出るものがあります。たとえば、浴室乾燥機がない物件は、単独では「不便だが許容範囲」と見えることがあっても、同価格帯の近隣物件の多くが標準装備として備えていれば、入居者の選択肢から外れる一因になります。エントランスや共用廊下の清掃状態、駐輪場の使いやすさ、インターネット設備の有無なども、自物件だけで見ていると判断が難しく、競合物件と並べたときにはじめて差として認識されることがほとんどです。

「自物件を単独で見て問題なし」と判断している間は、競合物件との差がどこにあるかが見えていません。

賃料についても、現在の市場での相対的な位置は競合比較でしか分かりません。「以前はこの賃料で決まっていた」という実績は、現在の市場での位置を示すものではありません。近隣の競合物件が設備を改善したり、新規供給が増えたりすることで、変えていない自物件の賃料水準が以前より相対的に割高になっている状態が生まれることがあります。これは賃料が絶対的に高すぎるという問題ではなく、競合物件との関係で生まれる相対的な差です。現在の状況を把握するには、今の競合物件の条件と成約事例の賃料を確認する必要があります。

弱点を正確に把握するには、自物件が市場の中でどの位置にあるかを競合物件の条件と照らして確認する作業が必要です。この作業を管理会社がデータをもとに担えているかどうかが、空室対策の方向性を正確に決められるかどうかに関係します。

管理会社に確認すべき競合比較の内容

管理会社への確認を「空室が続いています、よろしくお願いします」で終わらせていると、決まらない原因が市場環境にあるのか、競合との条件差にあるのか、見せ方の問題にあるのかが分かりません。空室対策を次の段階に進めるために確認すべきは、近隣で条件の近い競合物件と比べたとき、自物件にどのような差があるかという具体的な内容です。

管理会社に確認できる競合比較の内容は、3点が基準になります。1つ目は、同エリア・同規模・同価格帯の競合物件の現在の募集条件と成約状況です。どの物件が最近成約しているかが分かれば、成約した物件と自物件の条件の差が見えます。2つ目は、成約事例の賃料と自物件の賃料を平米単価で比較した数字です。「市場相場より高い・安い」という感覚論ではなく、近隣の成約事例との数字の比較を根拠にしてもらうことが確認の起点になります。3つ目は、競合物件が備えていて自物件にないもの、または自物件にあって競合にないものの整理です。この差を具体的にリストアップすることで、改善の対象候補が絞られます。

「市場環境が厳しいので決まりにくい状況です」という説明が続く場合、その根拠になっているデータを確認することが次の一手です。同エリアで他の物件が成約しているかどうか、成約しているとすればどのような条件の物件かを整理してもらうことで、問題が市場全体にあるのか、自物件の条件にあるのかが分かれます。この確認ができた時点ではじめて、どこに手をつけるべきかの優先順位が立てられます。

見えた弱点を変えられる条件と変えられない条件で整理する

競合比較から見えた弱点は、変えられる条件と変えられない条件に分けてから施策を選ぶことが必要です。この整理をせずに対策を始めると、変えられない条件に費用や時間を集中させることになる場合があります。どの弱点が変えられるもので、どの弱点が変えられないものかを管理会社と整理することが、施策の出発点です。

変えられない条件の代表は立地です。駅からの距離・周辺環境・接道状況・日当たりの向きなど、物件の立地条件はオーナーがコントロールできるものではありません。競合比較でこの部分の差が見えた場合、施策の対象は立地そのものではなく、立地の弱点を補える別の条件です。収納量・室内の広さ・インターネット設備の有無・駐車場の使いやすさなど、立地以外で整えられる条件を先に確認することが、取り組みの順序として適切です。

変えられる条件の中で手をつけやすいのは、設備の水準・共用部の清掃状態・室内の仕上がり・写真や掲載内容の質です。競合物件が備えていて自物件にない設備については、追加費用と賃料への影響、空室期間の短縮効果を管理会社と確認してから判断します。写真の品質や掲載内容の量に差がある場合は、費用をかけずに改善できる部分として先に見直す余地があります。賃料は調整の余地が大きい条件ですが、設備・掲載内容など変えられる条件を確認したうえで判断する順番が適切です。管理会社への問いかけは、「競合との差のうち、今手をつけられるものはどれか、手をつけられないものはどれか」を整理してもらうことです。

まとめ

入居者は複数の物件を比較して申込先を決めます。自物件の弱点が見えにくいのは、単独で物件を評価しているためです。競合物件との比較を通じて、賃料・設備・共用部の状態・掲載内容の差を相対的に把握することが、弱点を正確に見つける手順になります。

管理会社への確認の起点は、「近隣で条件が近い競合物件と比べたとき、自物件に何の差があるか」です。競合物件の募集条件、成約事例の平米単価、設備の差を具体的に整理してもらうことが、次の施策を選ぶ前提になります。「市場が厳しい」という説明が続く場合も、同エリアで成約している物件の条件と比較することで、問題の所在を絞り込むことができます。

弱点が見えたあとは、変えられる条件と変えられない条件に分けて優先順位を整理します。立地のような変えられない条件を改善対象にするより、設備・共用部の状態・写真の質・賃料水準という変えられる条件から確認を始めることが、実務上の取り組みの順序です。次の管理会社との連絡のタイミングで、競合比較を起点にした確認を一つ加えることが、弱点を把握する入口になります。

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この記事を書いた人

株式会社エルシーグランド代表。空室対策、リーシング、賃貸募集、管理会社とのやり取り、収益改善について、不動産オーナーの判断を現場と数字の両面からサポートしています。CPM・CCIMの視点をもとに、物件ごとの状況に合わせた客付け・賃貸募集の改善を支援しています。