NOIが同じでも、手元資金は同じとは限らない──融資条件で変わるBTCFとCoCの見方

同じ程度のNOIが出ている物件でも、手元に残るキャッシュは同じとは限りません。借入額、金利、返済期間などの融資条件によって、年間元利返済額(ADS)が変わるためです。NOIとBTCFが別の指標であること、そしてADSの水準がBTCFの絶対額を決める構造を確認しておくことが、収益を数字で把握するための出発点になります。

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KEY POINTS

この記事のポイント

  • NOIはローン返済前、BTCFはローン返済後──同じ物件でも融資条件次第で異なる数字になる
  • 年間負債支払額(ADS)の水準がBTCFの絶対額を決める仕組み
  • CoCはBTCFで計算する指標──NOIの水準だけで自己資本の効率は測れない

本文で詳しく解説します。

NOIとBTCFは「別の数字」──ローン返済が分岐点になる

投資用不動産の収益を確認するとき、NOI(営業純利益)という指標が基本になります。NOIは、潜在賃貸収入(PGI)から空室損・未回収損を差し引いて実効賃貸収入(EGI)を求め、駐車場や自動販売機などの雑収入を加えて総営業利益(GOI)とし、そこから管理費・保険料・固定資産税などの運営費を差し引いたものです。

ここで押さえておきたいのは、元利返済(ローンの支払い)はこの運営費に含まれないという点です。NOIはローン返済の前の数字であり、融資を組んでいるかどうかにかかわらず同じ物件から算出できる収益指標です。

BTCF(税引き前のキャッシュフロー)は、このNOIから年間負債支払額(ADS)を差し引いて求めます。ADSとは、ローンの月次元利返済額を12倍した年間の返済総額のことです。融資を組んでいれば、毎年このADSが手元から出ていくことになります。

NOIは物件の収益力を示し、BTCFは「この融資条件で保有する場合」に手元に残るキャッシュを示す。

この2つは別の指標です。NOIが高い水準にあっても、ADSが大きければBTCFは小さくなります。収益の確認において、NOIとBTCFをそれぞれ把握しておく理由はここにあります。

年間負債支払額(ADS)の水準がBTCFの絶対額を決める

ADSを決めるのは、金利・返済期間・借入額という3つの変数です。金利が上がれば毎月の返済額が増え、ADSは大きくなります。返済期間が短ければ元金の回収ペースが速くなるため、同様にADSが増えます。借入額が多ければ、金利と期間が同じでもADSは大きくなります。

この3変数の組み合わせがADSを決め、ADSの水準がBTCFの水準を左右します。逆に言えば、融資条件を変えることが、BTCFを変える直接の手段になります。

NOIが改善されてADSが変わらない場合、BTCFはその改善分だけ同額増えます。NOIの改善はBTCFの改善に直接つながる関係です。一方で、ADSが大きい状態にある場合は、NOI水準が高くてもBTCFの絶対額が小さくなります。問題は「NOI改善がBTCFに反映されない」ことではなく、「ADSが重い状態ではBTCFの絶対額そのものが小さい」という構造にあります。

たとえば、NOIが年間300万円あっても、ADSが270万円であれば、BTCFは30万円です。同じNOI水準でも、融資条件が異なりADSが150万円になれば、BTCFは150万円になります。NOIの数字だけを見ていると、実際の手元キャッシュが思ったより少ないと感じることがあるのは、このADSの水準が見えていないからです。

融資を借り換えてADSが下がれば、NOIは変わらなくてもBTCFは増えます。逆に、金利上昇でADSが増えれば、NOIが同水準でもBTCFは減ります。また、返済期間を長くすればADSは下がりますが、総支払利息は増えます。融資条件を検討する際は、まずADS水準の変化が手元キャッシュにどう影響するかを確認することが実務の起点になります。

CoCで見る「自己資本の効率」──計算に使うのはBTCFであってNOIではない

CoC(キャッシュ・オン・キャッシュ収益率)は、年間BTCFを初期自己資本で割った比率です。取得時に投じた頭金と取得コスト(登記費用・仲介手数料などを含む)の合計が分母になります。投じた自己資本が1年間にどれだけのキャッシュを生んだかを示す指標です。

ここで注意したいのは、CoCの分子がBTCFであって、NOIではないという点です。NOI ÷ 自己資本はCoCではありません。表面利回り(PGIを物件価格で割る)・キャップレート(NOIを物件価格で割る)・CoC(BTCFを初期自己資本で割る)は、それぞれ分子の指標も分母の対象も異なります。

CoCはBTCFを分子にするため、融資条件の変化がそのままCoCに影響します。同じ物件・同じNOIでも、融資条件が異なれば、ADS→BTCF→CoCという連鎖で数字が変わります。ADSが大きくBTCFが小さければ、NOI水準が高くてもCoCは低くなります。「表面利回りが高いのに投資効率がよく見えない」という感覚の背景に、CoCとNOI系指標の混同があることは少なくありません。

CoCは単年スナップショットであり、保有期間全体の収益(売却益・元本返済を通じた自己資本増加)は含まれません。長期保有を前提にした収益確認ではIRRを使う場面もありますが、「この融資条件で取得した場合の初年度の自己資本効率はどの水準か」を確認するうえでは、CoCが比較しやすい指標になります。

融資条件を確認する3つの視点──DSCR・LTV・ローン定数

融資条件を見直す場面や、物件取得時に融資条件を比較する場面では、以下の3つの指標を参照点として使えます。

DSCR(負債サービス比率)はNOI ÷ ADSで求めます。1.0を超えていれば、NOIの範囲内でADSを賄えている状態です。1.0を下回ると、NOIだけでは返済が賄えず、毎年自己資金の持ち出しが生じます。空室が増えてNOIが下がると、同時にDSCRも悪化します。現在の物件のDSCR水準を把握しておくことで、賃料変動や空室増加に対する収益の余裕度が数字として見えてきます。金融機関がDSCRを融資審査の確認材料として使うのは、NOIがADSをどの程度カバーしているかを見るためです。

LTV(ローン・トゥ・バリュー)は借入額 ÷ 物件価値の比率です。LTVが高いほど自己資本の比率が低く、物件価値が下落した局面で自己資本が失われやすい状態になります。借換えや追加融資を検討する際に、金融機関がLTVを審査材料として確認するのはこのリスクを見るためです。LTVの水準が高いまま融資条件の変更を求めることは、審査上の難易度に影響することがあります。

ローン定数(ADS ÷ 借入元本)は、融資コスト全体を1本の比率で表します。物件のキャップレートとローン定数を比較することで、融資を使うことが自己資本収益率(CoC)を高める方向に働くか、下げる方向に働くかの初年度モデルによる判断ができます。キャップレートがローン定数を上回っていれば、初年度モデルでは融資を増やすことでCoCが上昇する方向にあります。ただし、これは初年度の年間運営モデルにおける簡易判定であり、将来のNOI変化・融資残高・売却価格によって全期間の結果は変わります。

これら3指標が現在の物件でどの水準にあるかを確認できていない場合は、金融機関や、融資・不動産投資に詳しい専門家へ相談する際の整理材料として活用できます。

まとめ

NOIとBTCFは別の指標です。NOIはローン返済前の物件収益力を表し、BTCFはそのNOIから年間負債支払額(ADS)を引いた後の手元キャッシュです。

ADSの水準がBTCFの絶対額を決め、CoCはそのBTCFをもとに自己資本効率を示します。NOIが増えればADSが変わらない限りBTCFも同額増えますが、ADSが重い状態ではBTCFの絶対額が小さくなります。同じNOIでも、融資条件が異なれば手元資金もCoCも全く違う結果になることがあります。

現在保有している物件の融資条件について、ADSの水準・DSCRの状況・ローン定数とキャップレートの関係が確認できていない場合は、これを整理する機会にしてみてください。融資条件を含めたNOI・ADS・BTCFの3段階の把握が、収益を数字で確認するための実務上の出発点になります。

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この記事を書いた人

株式会社エルシーグランド代表。空室対策、リーシング、賃貸募集、管理会社とのやり取り、収益改善について、不動産オーナーの判断を現場と数字の両面からサポートしています。CPM・CCIMの視点をもとに、物件ごとの状況に合わせた客付け・賃貸募集の改善を支援しています。